ユニバーサルデザイン事例集

ウェブサイト タブとアコーディオン アクセシビリティの勘所

Tags: アクセシビリティ, ユニバーサルデザイン, UIコンポーネント, キーボード操作, スクリーンリーダー, ARIA

はじめに

ウェブサイトにおいて、多くの情報を分かりやすく整理し、限られた画面スペースを有効活用するために、タブインターフェースやアコーディオンといったUIコンポーネントが頻繁に利用されています。これらのコンポーネントは、適切に設計されていれば情報の発見性を高め、ユーザーインターフェースを整理する上で非常に有効です。

しかしながら、アクセシビリティが考慮されていない場合、特にキーボード操作のみを行う方やスクリーンリーダーを利用する方にとって、これらのコンポーネントは操作や内容の理解が困難になる大きな障壁となり得ます。情報の折りたたみや表示切り替えは、すべての方が容易にアクセスできるよう配慮する必要があります。

本記事では、ウェブサイトで利用されるタブインターフェースとアコーディオンについて、アクセシブルな設計を行う上での重要なポイントを、具体的な利用者体験に焦点を当てて解説いたします。

タブインターフェースのアクセシブル設計

タブインターフェースは、複数のコンテンツセクションを切り替えて表示するUIです。書類のタブやファイルキャビネットのインデックスのように、関連情報をまとめて見やすくするのに役立ちます。

アクセシビリティ上の課題

アクセシブル設計の勘所と利用者体験

  1. 適切なキーボード操作の提供:

    • Tabキーでタブリスト全体に一度フォーカスが当たり、そこから左右の矢印キーで個々のタブ間を移動できるように設計します。
    • アクティブなタブが決定したら、Tabキーを押すことで、そのタブに対応するコンテンツの先頭にフォーカスが移動するようにします。
    • 利用者体験: キーボードユーザーはマウスを使わずに、タブの選択とコンテンツへの移動をスムーズに行えるようになります。タブリスト全体をスキップしてコンテンツへ直接移動する手段（スキップリンクなど）も併せて提供すると、さらに効率的です。

  2. フォーカスの明確な表示と管理:

    • キーボードフォーカスが当たっている要素（タブやコンテンツ内のリンクなど）が、誰にでも分かるように視覚的に強調されるようにします（アウトライン表示など）。
    • タブを切り替えた際に、関連するタブパネル（コンテンツ領域）へフォーカスが移動するように実装します。
    • 利用者体験: 現在操作している場所や、タブ切り替え後にどこから情報を読み始めれば良いのかが明確になり、混乱を防ぎます。

  3. スクリーンリーダーへの状態伝達（ARIA属性の活用）:

    • 各要素に適切なARIA属性を設定します。例えば、タブリスト全体には role="tablist"、個々のタブには role="tab"、対応するコンテンツパネルには role="tabpanel" を設定します。
    • 現在選択されているタブには aria-selected="true" を設定し、非選択状態のタブは aria-selected="false" とします。
    • タブとコンテンツパネルの関連付けを aria-controls と aria-labelledby 属性で行います。
    • 利用者体験: スクリーンリーダーユーザーは、「これはタブリストである」「この要素はタブである」「これはタブパネルである」といった役割、「〇つ中△番目のタブが選択されています」といった状態、「このタブは〇〇という見出しのコンテンツに対応しています」といった関連性を正確に把握できるようになり、コンテンツの構造を理解しやすくなります。

アコーディオンのアクセシブル設計

アコーディオンは、見出し部分をクリックまたは操作することで、その下のコンテンツ領域が開閉するUIです。FAQセクションなど、限られたスペースで多くの項目を表示したい場合に便利です。

アクセシビリティ上の課題

アクセシブル設計の勘所と利用者体験

  1. 適切なキーボード操作の提供:

    • アコーディオンの見出し部分がボタンとして認識・操作できるように実装します。EnterキーまたはSpaceキーで見出し部分の開閉操作ができるようにします。
    • Tabキーで次のアコーディオン見出しや、開いているコンテンツ内の次の要素へ移動できるようにします。
    • 利用者体験: マウスが使えないユーザーも、キーボードだけで各セクションの開閉を行い、必要な情報を表示させることができます。

  2. 状態の明確な伝達（ARIA属性の活用）:

    • アコーディオンの見出し部分をボタンとして実装し、aria-expanded 属性を使用します。コンテンツが開いている時は aria-expanded="true"、閉じている時は aria-expanded="false" と設定します。
    • 可能であれば、制御するコンテンツ領域との関連付けを aria-controls 属性で行います。
    • 利用者体験: スクリーンリーダーは「〇〇（見出し）ボタン、折りたたみ済み」「〇〇（見出し）ボタン、展開済み」のように、現在の状態を明確に読み上げます。これにより、ユーザーはどのセクションが開いているか、次に操作するとどうなるかを容易に判断できます。

  3. 役割の明確化:

    • アコーディオンの見出し部分は、単なるリンク（<a>要素）ではなく、インタラクティブなボタン（<button>要素）として実装するのが理想的です。<button>要素はデフォルトでキーボード操作が可能で、スクリーンリーダーにも「ボタン」として適切に伝わります。CSSで視覚的な装飾を調整します。
    • 利用者体験: 見出し部分が操作可能な要素であること、そしてその操作が開閉機能を持つことが明確に伝わり、利用方法で迷うことが減ります。

まとめ

タブインターフェースとアコーディオンは、適切にアクセシブルな設計を行うことで、情報の構造化と効率的なアクセスを、より多くの人々に提供できる強力なツールとなります。単に見た目や操作性を実装するだけでなく、キーボード操作への対応、フォーカスの管理、そしてARIA属性を用いた役割や状態の正確な伝達といった基本的な配慮が、利用者体験を大きく向上させます。

これらのコンポーネントにおけるアクセシブルな実装は、特に視覚障害を持つスクリーンリーダーユーザーや、肢体不自由などによりマウスの使用が難しいキーボードユーザーにとって、ウェブサイトの情報へアクセスする上での障壁を取り除き、情報格差の解消に直接的に貢献します。

ウェブサイトの設計・開発においては、これらのコンポーネントを実装する際に、技術的な仕様に加えて「実際に利用する方がどのように操作し、情報を得るか」という利用者視点を常に持ち続けることが重要です。アクセシブルなタブとアコーディオンの普及は、ユニバーサルデザインの実現に向けた重要なステップと言えるでしょう。